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第126回 東京圏への人口一極集中 〜2019年の転入超過は約15万人

2020年8月3日

東京圏への人口一極集中 〜2019年の転入超過は約15万人

 総務省の住民基本台帳人口移動報告から、外国人も含む2019年の人口の動きを調べてみると、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は、転入が転出を14万8,784人上回り、転入超過になっています。

 都道府県別でみると、転入超過になっているのは東京都(+82,982人)、神奈川県(+29,609人)、埼玉県(+26,654人)、千葉県(+9,538人)、滋賀県(+1,079人)、大阪府(+8,064人)、福岡県(+2,925人)、沖縄県(+695人)の8都道府県のみです。

 それ以外の都道府県は転出超過です。住民基本台帳人口移動報告には三大都市圏と呼ばれるカテゴリがあり、東京圏、名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)を指しますが、大阪圏(▲4,097人)や名古屋圏(▲15,017人)も転出超過でした。図表1を見ると、バブル崩壊後を除いて、東京圏の転入超過と三大都市圏以外の転出超過が継続していることが分かります。

図表1:各都市圏における人口の転入転出の推移(プラスが転入超過)

(資料:総務省「住民基本台帳人口移動報告」から作成)

東京圏に転入しているのは主に10代後半から20代

 2019年の東京圏への転入状況について年代別のデータ(図表2)を参照すると、東京圏への転入は10代後半から20代が中心であることが分かります。50代後半以降に転出超過になる年代もありますが、10代後半から20代の転入の状況には及びません。つまり、大学進学や就職で東京圏に移住し、退職を機に東京圏外に転出する人が僅かに存在するものの、基本的にはそのまま定住しているということです。

 第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に関する検証会では、東京圏への転入超過の要因として、大学進学率の上昇、正規雇用や大企業への就職志向の高まりが指摘されています。大企業も東京圏に集中しており、このような志向が強まると、どうしても東京圏に若年層の人口が集中してしまうことになります。

 この状況を「東京圏への人口一極集中」と呼ぶことがあります。「東京圏への人口一極集中」によって起きていることは、10代後半から20代の若年層が移住することで東京圏外の若年層の人口が減っていくということだけではなく、退職後に東京圏以外に移住する人もいるという形で高齢化を促進しているということです。また、相対的に三大都市圏の女性の未婚率が高く、出生率も低い傾向があることから、「東京圏への人口一極集中」が人口減少に直結しているとの指摘もあります。

図表2:東京圏の年代別の転入転出の状況(プラスが転入)

(資料:総務省「住民基本台帳人口移動報告」から作成)

地方創生第2期でも東京圏からの転出を推進

 長期的に見れば、「東京圏への人口一極集中」によって、東京圏外の人口減少と高齢化が加速していくことで、様々な歪みを生じる可能性があります。例えば、東京圏外における介護や福祉の人員不足という問題があげられます。一方で、東京に人口が集中すると、東京で大災害が生じた際のリスクが大きくなるという問題もあります。

 他にも、人口減少と高齢化が合わさることで直面する問題に事業承継があります。若年層の東京圏への移住によって、東京圏外で事業を継ぐ若年層がいなくなり、企業数が減少していくことが予想されています。地域における企業数が減ると、地域経済を主導する人々が少なくなり、経済規模の縮小にもつながります。

 政府がまとめた第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2015年〜2020年度)では、基本目標として設定された「地方への新しいひとの流れをつくる」中で、2020年までに達成すべきKPI(重要業績評価目標)として「地方→東京圏転入6万人減」「東京圏→地方転出4万人増」「東京圏から地方への転出入均衡」が掲げられました。図表1にあるように地方から東京圏への転入は増えている状況にあり、政策目標が実現できたとは決していえない状況にあります。

 そこで、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2021年〜2026年度)の中でも「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」として、地方への移住・定着を推進するような政策が継続されます。

 第2期で新しく導入されたのが「関係人口」という考え方です。総務省の「関係人口ポータルサイト」によれば、「関係人口」とは移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指すとあります。移住や定着の前に多様なやり方で地方とのつながりを強化し、将来の移住や定着につなげようとする狙いが政策にあるものと考えられます。

 2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」を改定し、副業・兼業の促進についてガイドラインを作成しました。例えば、平日に東京圏で仕事をし、週末に東京圏外で副業・兼業を行うような人が徐々に増えていくかもしれません。

 副業・兼業のような形式は一例ですが、まずは「関係人口」として地域とつながりを築いてから、東京圏外に移住・定着するという方向性は、転入する側もされる側も心理的なハードルが下がるという意味で効果的な政策だといえるのかもしれません。

(ニッセイ基礎研究所 福本 勇樹)

筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
研究・専門分野:リスク管理・価格評価