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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第129回 1グラム7,000円は、高価?お手頃?金価格はどう決まる?

2020年11月5日

金投資とは、そのメリットは?

 2020年8月、米国の有名な投資家であり、投資の神様とも呼ばれるウォーレン・バフェット氏が率いる「バークシャー・ハサウェイ」という米企業が、カナダの金鉱山企業株を保有していることが明らかになりました。金嫌いで有名だったバフェット氏による金関連投資については、日本でも大きく報道されました。

 このコラムでは、投資資産としての金について考えていきたいと思います(漢字では、おかねも「金」と書くので貴金属の「金」と紛らわしいですが、以下では「金」と書いた場合は貴金属の「金」の事を指すことにします)。

 金価格は最近、急上昇しています。金価格は2012年から1グラム4,000円台(税抜価格)で推移していましたが、2019年の後半から価格が上昇しはじめ、2020年9月には1グラムの税抜価格6,600円前後、税込価格では7,000円前後で取引きされています。

金価格の推移

 金価格が上昇した背景には何があるのでしょうか。
 実は、おかねの価値が減少する場合には、金を購入しておいた方が賢明な場合があります。
 例えば、第二次世界大戦が終わるころ(1945年)、米俵1俵(約60s)のお米は60円で購入できました。今は約1万円です。品種改良はされていても、75年前のお米と今のお米に大きな違いがないとすれば、60円で購入できたものが、その100倍でも購入できないことになります。これは、おかねの価値が下がったと言えます。

 お米は長期保存に適していませんが、米俵1俵分の金を購入して保存しておけば、仮に将来、おかねの価値が下がったとしても、米俵1俵を購入するのに、金が100倍必要になることはないだろう、ということです。

 参考までに、1945年の金価格は4円80銭(田中貴金属 税抜参考小売価格)です。米俵1俵分の金は12.5グラム、今の価値では8万円を超えており、米8俵分を購入できます。むしろ、金の価値は高まっているとも言えます。

 このように、おかねの価値が下がる場合には金を購入しておくことが一種の保険になります(ただし、1945年の第二次世界大戦終戦当時は現在と政治・経済環境や規制などが大きく異なっており、あくまでもイメージをつかむための比較だと考えてください)。

金の魅力が高まるとき

 おかねの価値が下がること、つまり他のモノなどの価値が上がることをインフレ(インフレーション)と呼びますが、現在は、戦後の日本のように、おかねの価値が下がるインフレはあまり考えられていません。むしろ、バブル崩壊後はおかねの価値が上がるデフレ(デフレーション)が起きました。日本ではインフレのために金を購入するという動機は昔より低下していると言えます。しかし、世界的に見ればインフレが起きている国は多く、こうした国では金を購入しておくと、おかねの価値が下がった場合の保険として活用できると考えられます。

 また、株や債券は価格が下がり、株や債券を発行している企業などが倒産するといった極端なケースでは価値がなくなってしまう可能性もありますが、金は誰かによって発行されているわけではなく、金(の希少性)自体に価値があると考えられているため(大量に発掘されて手に入りやすくなるといったことが起きない限り)、価値が極端に下がるといったことは考えにくいと言えます。

 こうしたことから、景気が悪く、株式などへの資産に投資する魅力が落ちる場合(価値が下がると思われる場合)には、価値の下がりにくい金への魅力が高まり、購入される傾向にあります。

 最近では、新型コロナウイルスの感染拡大や都市封鎖といったウイルスの封じ込め政策によって、経済成長が急減速したため、こうした状況を背景に金価格が上昇していると思われます。

高価かお手頃かを判断することは、簡単ではない

 ただし、金については1グラムいくらが妥当なのかといった価値の計算をすることが難しい資産でもあります。債券や株式投資なら、利息や配当として収入が得られるので、儲かりそうか、何年投資すれば元が取れそうかなど、ある程度の見積もりをすることができます(もちろん、株式投資した会社が倒産するなどで皮算用に終わり、実現しない場合もあります)。

 グラフからもわかるとおり、金の価値は変動も大きく、価格の妥当性を判断することは簡単ではありません。景気が回復し、金の魅力が相対的に低下して、株式投資の魅力が上昇するなどといったことも考えられます。金だけ持っていたら安心という訳でもありません。また、金といってもバフェット氏が投資したのは、金鉱山企業の「株式」ですし、金に関連した投資信託(ETF)を購入することもできます。経済などの状況に応じて魅力的な資産は移り変わっていきますので、金投資のメリット・デメリットを理解したうえで、他の資産と同じように様々な投資資産の一つとして検討することが重要と言えるでしょう。

(ニッセイ基礎研究所 山 武士)

筆者紹介

高山 武士(たかやま たけし)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 准主任研究員
研究・専門分野:欧州経済、国際経済