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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第106回 宅配便取扱個数は、42.5億個まで増加。

2018年12月3日

ネット通販の市場拡大を背景に、宅配便の取扱個数は急増

 国土交通省「宅配便取扱実績」によれば、宅配便の取扱個数は急速に増加しており、2017年度は42.5億個に達しました(図表1)。
 1秒間に約130個の宅配便が配達されている計算になります。こうした取扱個数急増の要因の1つに、ネット通販市場の拡大が挙げられます。スマートフォンの普及により、場所・時間を問わず商品の注文が可能になったことや、ネット通販で扱われる商品の裾野が急速に広がったこと等により、ネット通販の市場規模は8.6兆円(※1)に達しました(2017年度)。
 全国の百貨店の売上高(約6.0兆円)(※2)を上回るまでに、ネット通販は成長しています。

(※1)経済産業省「平成29年度 電子商取引に関する市場調査」企業と消費者間の物販系EC(電子商取引)の市場規模
(※2)日本百貨店協会「全国百貨店売上高概況」全国百貨店売上高(2017年1月〜12月)

図表-1 宅配便の取扱個数
(出所)国土交通省「宅配便取扱実績」をもとにニッセイ基礎研究所作成

宅配の現場では人手不足が深刻に

 一方で、取扱個数の急増に伴い、宅配業界では人手不足が問題となっています。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」によれば、2018年9月の労働需給を表す「雇用人員判断D.I.」(プラスは人員過剰、マイナスは人手不足を示す)は、「全産業」の値が人手不足を示す「-33」であるのに対し、宅配便事業者を含む「運輸・郵便業」の値は更なる人手不足を示す「-50」となりました(図表2)。他の業種と比較して、宅配業界の人手不足は深刻な状況にあります。

図表-2 雇用人員判断D.I.
(出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
注)「過剰」(回答社数構成比)−「不足」(回答社数構成比)

 こうした人手不足を解消する新技術として、無人飛行機(ドローン)を使った宅配サービスが期待されています。千葉市では2016年1月にドローンの活用に進める国家戦略特区の指定を受け、幕張地区でドローンを使った宅配便配送の実証実験をスタートさせており、2019年度までの実用化を目指しています。具体的には、ドローンで東京湾岸部の物流施設から幕張新都心内の集積所へ輸送し、そのうえで高層マンションの各住戸へ宅配するサービスを想定しています。

 ただし、実証実験が行われた幕張新都心は、「配送ルートの大半が海上と河川」や「電線が地中化している」等、ドローンによる配送ビジネスが成立しうる環境が整っています。全国で上記の条件が整っている地域は限られており、ドローンを使った宅配サービスを本格的に実用化するためには、まだ課題が多いようです。

「再配達」が宅配便事業者の更なる負担増に

 宅配の現場で人手不足が深刻になる中、不在のために持ち帰る「再配達」が、宅配便事業者の更なる負担増を招いています。このような状況を受けて、国土交通省HP上では「再配達削減のために活用をお願いしたい3つの方法」(※3)が掲載されています。具体的には、①「時間帯指定の活用」、②「各事業者の提供しているコミュニケーション・ツール等(メール・アプリ等)の活用」、③「コンビニ受取や駅の宅配ロッカーなど、自宅以外での受取方法の活用」を掲げています。
 しかし、内閣府政府広報室が2017年12月に実施した「再配達に関する世論調査」によれば、回答者の7割弱が、宅配ボックスやコンビニでの受取等、いずれも利用したことがないと回答しており(図表3)、ネット通販利用者の認知度はまだ低い状況にあるようです。

 また、国土交通省「宅配便再配達率」によれば、2018年4月期の宅配便再配達率は、前回調査からやや低下したものの、15%となり、依然として高い水準にあります(図表4)。特に、単身世帯が多い都市部で高い傾向がみてとれます。

(※3)http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_reduce.html

図表-3 宅配便を受取るために利用した方法
(出所)内閣府政府広報室「再配達に関する世論調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成

図表-4 宅配便再配達率 (出所)国土交通省「宅配便再配達率」をもとにニッセイ基礎研究所作成

配送問題の解決には、消費者の協力が不可欠

 ネット通販は、今や私たちの生活に欠かせないものとなっています。しかし、現状のままでは、宅配業界での人手不足からネット通販が利用できなくなるかもしれません。この問題の解決には、コンビニでの荷物受取や時間帯指定配達の活用等、みなさんの協力が不可欠になるといえそうです。

(ニッセイ基礎研究所 金融研究部 吉田 資)


筆者紹介

吉田 資(よしだ たすく)

株式会社ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・総合政策研究部兼任
研究・専門分野:不動産市場、投資分析