第7回 企業にとってのESG ~会社の経営と関係あるの?~

2023年11月30日

ご存じの通り、持続可能でより良い世界を目指して、国際的かつ積極的な取り組みが進んでいます。
「各国の政府が決めた目標なのだから、国際機関や各国の政府に任せれば良い。企業はESG課題の解決に取り組まなくても良いのではないか?」

このように考える人がいるかもしれませんが、企業も国際社会の一員であることを忘れてはいけません。
今回は、企業によるESG課題に対する積極的な取り組みが求められる理由と、その取り組みの結果として企業が享受するメリットについて理解を深めましょう。

2030年までに持続可能でより良い世界を実現するための目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)では、国際機関や各国政府だけでなく、自治体、企業、個人なども、立場を問わず、課題解決に取り組むことが求められています。一方、SDGsの前身で2015年までに達成すべき目標であったMDGs(Millennium Development Goals)では、課題解決は国際機関や各国政府に委ねられていました。つまり、課題解決に取り組むべき主体の範囲が広がったのです。国際機関や各国政府が負うべき責務を押し付けられたように感じるかもしれませんが、これはMDGsなどを経て学んだ教訓を踏まえた結果です。MDGsには成果があった一方で、児童労働や男女格差などの課題が残り、子供を労働力とみなしたり、女児に教育は不要だと考えたりするような企業や個人などの意識・行動にも原因があることを学んだのです。このため、立場を問わず皆で課題解決に取り組むことになったのです。

ここまでの説明だけでは、国際社会の一員として当然の責務を果たすという崇高な目標のために、企業がESG課題の解決に取り組んでいるといった誤解を招くかもしれません。国際社会の一員としての当然の責務であることは否定しませんが、企業がESG課題に取り組む理由はそれだけではありません。ESG課題への取り組みは、企業が抱えるビジネスリスクを軽減し、新たなビジネス機会を開拓する手助けにもなると考えられています。

企業の不正行為が明るみに出ると、不正行為を行った企業が世間から強く批判されることはご存じの通りです。消費者や取引先企業が不正行為を行った企業から離れ、結果的にこれまでのようなビジネスを継続することが難しくなります。会社ぐるみの法律違反のような極めて悪質な不正行為に限らず、環境や社会への悪影響が懸念される企業活動に対しても、消費者や取引先企業は同様の反応を示すようになってきています。数年前には生産過程で児童労働や強制労働が疑われるコットンの不買運動が話題になりました。最近の身近な例では、環境への悪影響を考慮してプラスチックストローの提供を取りやめる飲食店が増えています。ESG課題に積極的に取り組み、自社が環境や社会へ及ぼす悪影響を縮小することが、ビジネスの継続が困難な事態に陥るリスクを軽減し、企業自体の持続可能性を高めると考えられています。

一方で、プラスチックストローを製造する企業にとってのビジネスリスクは、紙ストローなどの代替品を製造する企業にとっては新たなビジネス機会です。消費者や取引先企業は、環境や社会への悪影響が懸念される企業から離れていく一方、環境や社会に対する良い影響が期待できる企業との取引を増やす傾向があるからです。ビジネス機会を捉えて成功した事例としては、自動車業界にも脱炭素化に向けた取り組みが望まれる中、ガソリン車の代替品である電気自動車を製造するテスラの急成長が有名です。

ESG課題の解決の取り組みは、企業が抱えるビジネスリスクの軽減と新たなビジネス機会の開拓を通じて、中長期的な企業価値の向上につながると期待されているのです。

(ニッセイ基礎研究所 高岡 和佳子)

筆者紹介

高岡 和佳子(たかおか わかこ)

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・
ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任
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