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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第133回 児童手当の見直し ―2022年10月から年収1200万円以上は廃止へ―

2021年3月1日

児童手当の仕組みと見直しの方向性

 2020年12月、政府は児童手当について見直す方針を決定しました。

 児童手当は、中学生までの子どもがいる世帯に子ども・子育て支援として現金を給付する制度です。子ども1人につき、3歳未満には月額15,000円、3歳以上から中学生までには月額10,000円が支給されます(第3子以降は3歳から小学校修了まで月額15,000円に引上げ)。ただし、所得制限が設けられており、世帯主の年収が960万円程度(子ども2人の専業主婦世帯の場合)を上回る場合は特例給付の対象となり、支給額は子ども1人につき月額一律5,000円となります。

 今回の見直しでは、世帯主の年収が1,200万円程度を上回る世帯への特例給付が廃止されることになりました(※1)。対象から外れる子どもの数は約61万人、全体の4%にあたると見込まれています。
 施行に要する準備期間等も考慮して、2022年10月支給分から実施される見通しです。

(※1) 当初は所得基準を夫婦合算の世帯収入で計算する方向で議論がなされていましたが、今回は見送られました。しかし、引続き検討課題として残されています。

児童手当の現行制度と見直し後

(資料) ニッセイ基礎研究所作成

必要な支援に支出を集中させることが必要

 児童手当が見直された背景には、社会保障費(※2)の急激な増加を受けて、支出の中身をしっかり精査する必要性が高まったことなどがあげられます。

 少子化対策の拡充が叫ばれる中、子ども・子育て関係の給付も例外ではなく、真に必要な支援に集中すべきであるという議論がなされていました。厚生労働省が行った児童手当の使途等に関する調査では、世帯年収が高いほど、「使う必要がなく残っている」という回答が多くなっています。高所得世帯ほど、児童手当が必ずしも子どものために使われているとは限らないのが現状であり、所得制限を設けることで、浮いた財源を他の必要な分野に充てることができます。このような見直しを実施することで、子ども・子育て支援の政策効果を高めることができると考えられます。

 また、2019年10月には幼児教育・保育無償化が始まり、子育てに関する支援がより手厚くなりました。そういった他の制度変更も相まって、今回の児童手当の特例給付の縮小につながりました。これによって、年間約370億円の財源が得られると見込まれています。

 約370億円の財源は、待機児童対策に充てられることになっています。共働き世帯の増加などで保育のニーズが高まるもとで、待機児童問題の解消を図るために、政府は2024年度までに待機児童をゼロとすることを目標として約14万人分の保育の受け皿を新たに整備するとしています。

(※2) 年金、医療、介護、子育て等の社会保障に関する国の1年間の支出。

児童手当の使い道(世帯年収別)

(備考) 児童手当受給者全体に調査した使途別使用金額の平均金額の構成比
(資料) 厚生労働省「平成24年児童手当の使途等に係る調査」よりニッセイ基礎研究所作成

子育て支援に対する積極的な姿勢を

 一方で、国として少子化対策に力を入れなければならない中で、児童手当を見直すのはおかしいのではないかという意見もあります。特例給付の縮小により、親の子育てに対する将来への不安が増大してしまうのであれば元も子もありません。また、新型コロナウイルスの感染拡大による将来への不安などから、このところ妊娠を控える動きが広がっており、出生数が大幅に減少することが見込まれています。政府による子育て支援への積極的な姿勢がこれまで以上に明確に示されなければ、少子化の流れは加速する一方でしょう。

 引続き、政府による丁寧な制度設計や十分な説明が、国民の理解を得るうえで欠かせません。

(ニッセイ基礎研究所 藤原 光汰)

筆者紹介

藤原 光汰(ふじわら こうた)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済